読み終わらない本が机に増えていくと、「今夜こそ一冊」と約束したくなる。疲れて帰った夜には、その約束が重いこともある。まずは手元の一冊を10分だけ開き、どこまでなら無理なく読めるかを試してみよう。
順番は、一冊を決める、読む場所を選ぶ、次に開く場所を残す、の三つである。10分はこの薬局で提案する着手の目安で、続けられる時間や理解の深さを保証するものではない。
読まない人の割合と、自分が止まる理由は別
文化庁の令和5年度「国語に関する世論調査」では、1か月に本を「読まない」と答えた人が62.6%だった。全国の16歳以上を対象に2024年1〜3月に実施し、有効回答は3,559人。ここでいう本は電子書籍を含み、雑誌や漫画は除いている。
ただし、この数字は「読みかけの本を最後まで読めない人」の割合ではない。自分が続かない原因や、10分なら続くかどうかまでは分からない。今夜を振り返るなら、本を選べずにいたのか、開いても内容が難しかったのか、読む前に眠くなったのか。止まった場面を一つ思い出すところから始めたい。
読む前に決める一つ
読書を再開する夜に決めるのは、今夜読む一冊だけである。
2冊も3冊も同時に進めようとせず、積んである本は「いつか読む」の棚に置いたまま、今夜の一冊だけを取り出す。残りは失敗の証拠ではなく、いまは出番のない在庫である。選ぶ基準は、新しさや値段ではない。いま抱えている症状にいちばん近いかどうかで決める。どの本も合わない気がするなら、積読から無理に選ばず、症状から選び直すほうが早い。
最初の10分をどこから読むか
一冊が決まったら、読み始める場所を冒頭と目次のどちらかに決める。
- 冒頭から — 著者の問題意識に自分の症状を重ねたいときに向く。まず本の流れに入りたいなら、こちらから始める。
- 目次から — 実用書を道具として使いたいときに向く。目次を眺め、いまの症状に合いそうな章に印を一つ付ければ、最初の10分の仕事は終わりである。
10分経ったら、そこで止めても、そのまま読み進めてもよい。眠ければもっと短くしてよいし、目次に印を一つ付けるだけでもよい。分からない言葉が続くなら、時間を延ばすより、その章が前の説明を前提にしていないか確かめる。
閉じるときは、次に開くページへ栞を挟む。翌日読めなかったら、まとめて取り返そうとせず、次に余裕のある日に栞の前後を読み直す。毎日欠かさないことを、新しい義務にしなくてよい。
全部読まなくてよい条件
実用書の拾い読みは、次の条件がそろっているときに選べる。
- 症状が特定の場面に絞れている(例: 朝の着手だけが苦手)
- 本の構成が章ごとに独立していて、拾い読みを前提に作られている
- 通読そのものが目的ではない
たとえば、仕事の実用書で「朝、作業を始める場面」を調べたいなら、目次で対応する章を探す。その章が独立して読める作りなら、そこから試せる。前章の用語や手順が分からないと読めない構成なら、必要な前提へ戻る。
思想や物語の流れ全体を受け取りたいときは、通読する意味がある。読む時間を短く区切ることと、章を飛ばすことは別である。順番に読みたい本も、一回10分ずつ読み進めてよい。
読了を数えない記録のつけ方
読了数の記録が励みになる人もいる。一方で、積読の冊数を見て自分を責めてしまう人には、その記録が負担になる。途中の本がすべて「未達成」として目に入るからである。
冊数に追われたくないなら、紙の手帳や普段のメモに、読み始めた日を残す。次の二つは、書きたいことがあったときだけ添えればよい。
- 気になった一文とページ、または分からなかった箇所
- 読んだときの様子(焦った、眠かった、次も読んでみたい、など)
目次を見ただけの日は「目次に印を付けた」で終えてよい。一文を見つけることまで宿題にすると、読む前の負担が増えてしまう。記録は自分に合う読み方を振り返るための材料であり、毎回の成果を証明するためのものではない。冊数を数える方法が励みになっている人は、その方法を続けてよい。
次の一歩
今夜の一冊を決めるところで止まってしまうなら、自己啓発本の選び方で、症状から一冊へ絞る。10分読んでも合わなかった本をどうするか迷ったら、自己啓発本が意味ないと感じる理由で仕分ける。10分を確保できないほど時間に追われているなら、読み方より先に、時間に追われる感覚に効く一冊の処方箋から始めたい。
集中が続かない状態が読書以外にも及び、気分の落ち込みを伴って長引いているなら、読み方の工夫で粘らず、医療機関か公的な相談窓口に相談してほしい。
