『夢をかなえるゾウ1』(水野敬也著、文響社)は、ゾウの姿の神様ガネーシャと主人公の掛け合いで進む、物語仕立ての一冊である。理論中心の自己啓発書を積んできた人の入口として向くが、笑いの文体が合うかどうかで適合がほぼ決まる。見極めの手がかりと1巻からの読み方を、この鑑定カルテにまとめる。
この本が向く人
この本が受け持つ症状は、「変わりたいのに、まじめな本が最後まで読めない」である。評判の理論書を買っては序章で眠くなり、積んだ冊数だけが増えていく。読めない自分に引け目を感じて、また別のまじめな本を買う。この繰り返しの「読み切れない」という側面に、小説として先が気になる形で進む本書の物語形式が対応する。
もう一つの症状は、大きな決意を立てては三日で消えることである。本書で神様が出す教えは、日常のごく小さい行動の単位で示される。決意の大きさではなく行動の小ささから始めたい人には、この設計が合う。
説教くさい話を笑いにくるんでほしい人、通勤電車で読める軽さがほしい人も向く側である。文響社の書籍ページによれば文庫版で402ページあるが、会話中心で進みは速い。
この本が向かない人
最大の分かれ目は文体である。関西弁でまくし立てる神様と、突っ込みながら振り回される主人公という漫才調の掛け合いが、この本の背骨になっている。この笑いの調子が合わない人は、教えの中身にたどり着く前に読み口で脱落する。逆に言えば、冒頭の数ページで合うかどうかがすぐ分かる。
次に、体系や根拠を求める人には向かない。なぜその行動が効くのかを理論の積み上げで確かめたい人には、物語仕立ての説明は物足りず、じれったい。その読み方をしたい人は対話形式や理論書の側から入るほうがよい。
物語を飛ばして課題の一覧だけ拾おうとする人にも向かない。この本の仕掛けは、行動しない言い訳を物語の中で一つずつ外していくところにあり、一覧だけ抜くとその仕掛けが働かない。そして最も多い空回りは、面白く読み終えて課題を一つもやらないまま、次の巻を買うことである。読後に残すのは感想ではなく、試した一つの行動でよい。
扱う範囲と扱わない範囲
扱うのは、動けない人に最初の一歩を踏ませる物語である。個々の教えの背後にある理論の詳説や、悩みそのものの解決手順は扱わない。動けない状態が数週間続いて生活に支障が出ているなら、それは物語ではなく専門機関の領域である。
読み方の選択
物語なので通読が前提で、拾い読みには向かない。ただし読了を構える必要はなく、今夜の最初の10分で冒頭だけ読めば、文体との相性は判定できる。合えばそのまま先が読みたくなる作りである。
シリーズは複数巻あるが、1巻で完結しており、適合の判断も1巻でできる。読みながら、出てきた課題のうちできそうなものを一つだけ試す。全部やろうとすると、理論書を積んだときと同じ場所に戻る。
似た本との違い
『嫌われる勇気』(岸見一郎・古賀史健著、ダイヤモンド社)も地の文だけの理論書ではなく、哲学者と青年の対話で進む。ただしあちらは笑いではなく問答で、考え方の転換を正面から扱う。理屈ごと納得してから動きたい人はあちら、納得より先に読み切れることが必要な人は本書が合う。鑑定は『嫌われる勇気』が合わない人にある。
この本の前後に読むもの
動き出せないことが症状の中心なら、書名からではなく後回し癖に効く一冊の処方箋から見立て直す道もある。積んできた冊数に引け目があるなら、読書が続かないときの最小単位が読み方そのものを立て直す。読み終えて「面白かったけど変わらなかった」と感じたときは、自己啓発本が意味ないと感じる理由が次の一冊への期待の高さを調整してくれる。

