考えすぎて動けない症状に対する主処方は『反応しない練習 あらゆる悩みが消えていくブッダの超・合理的な「考え方」』(草薙龍瞬著、KADOKAWA)である。頭の中の反すうと、良い悪いを裁く判断癖で足が止まる人に向く。考えを紙に書き出す型のほうが合う人や、仏教由来の言葉に抵抗が残る人には代替を挙げる。悩みが消えるという約束はできない。仕分けられるようになる、までが処方の範囲である。
症状の見立て(どんな状態を指すか)
体は椅子に座ったままなのに、頭だけが残業を続けている。この記事で扱う考えすぎは、その落差の状態を指す。返信の文面を三回書き直して結局送らない。決める前に最悪の展開を何通りも並べる。寝る前に、今日の自分の発言を再生する。考える時間は増え続けるのに、動いた量は増えない。
見立てでは、考えの中身より考えの動き方を見る。同じ場面を繰り返し再生しているなら反すうが主である。あらゆることに良い悪いの札を貼って疲れているなら判断癖が主である。どちらでもなく、気づきやすさゆえに情報が多すぎて処理が追いつかないなら、根は感度の側にあり、処方は代替に変わる。
主処方の一冊と処方理由
この本を主処方にする理由は、考えすぎという症状を「考えの内容」ではなく「心の反応」の問題として扱う点が、上の見立てとかみ合うからである。
- 「同じ場面を何度も再生してしまう」側面には、悩みは出来事そのものではなく心の反応から始まる、という冒頭の見立てが対応する。再生を止めようと格闘する代わりに、反応が起きていると確かめる一歩を置ける。
- 「良い悪いの札を貼り続けて疲れる」側面には、判断という反応を手放す練習を扱う部分が対応する。札を貼る動き自体に名前が付くと、貼る前に気づける回数が増える。
- 「頭の中の状態を言葉にできない」側面には、心の状態をまず言葉で確かめるという実践の型が対応する。騒がしさに名前を付けることが、距離の最初の一歩になる。
開店直後の薬局で、「悩みが消える」とだけ書かれた処方を皿に載せると、グラムは傾いたまま戻らなかった。副作用を書き足して初めて水平に戻る。この本も、消す薬としてではなく、距離を作る薬として渡すときに釣り合う。
副作用(合わない人・効かない状況)
いちばん起きやすい副作用は、二重の採点である。「反応しない」を新しい合格基準にしてしまい、反応した自分をまた責める。これでは判断癖の上に判断を一枚重ねただけになる。反応に気づけた回数を数える読み方に切り替えると、この副作用は軽くなる。
仏教の言葉を土台にしているため、宗教色を避けたい人には入口で引っかかりが残る。無理に読み進める必要はない。また、概念として納得して終わり、頭の騒がしさが変わらないまま次の本を探し始める空回りも起きる。その場合は新しい一冊ではなく、今日の場面一つにメモを付けるほうが先である。
代替の二冊
- 『ゼロ秒思考 頭がよくなる世界一シンプルなトレーニング』(赤羽雄二著、ダイヤモンド社)。頭の中の渋滞を紙に書き出して流す型が合う人向け。距離を取るより先に、出し切って整理したい場合の処方である。
- 『「気がつきすぎて疲れる」が驚くほどなくなる 「繊細さん」の本』(武田友紀著、飛鳥新社)。考えすぎの根が、刺激や他人の様子への気づきやすさにある人向け。感度側の見立てから入り直す一冊である。
最初の10分の読み方
最初の10分は、悩みは心の反応から始まると述べる冒頭の見立てだけを読む。練習の各論は後でよい。読んだら、今日いちばん長く考え続けた場面を一つ選び、「反応」と一言だけメモを付ける。止められたかどうかは採点しない。名前を付けられたら、初日の用法は完了である。
全部読まなくてよい条件はこうする。冒頭の見立てが腑に落ちたら、自分の主症状(反すうか、判断癖か)に触れる部分だけ拾い読みしてよい。通読の順番を守ることより、場面に一つ持ち帰ることを単位にする。
この悩みの本体はどこで扱う領域か
反すうで眠れない日が続く、落ち込みが長引くという状態は診断の領域である。その場合は本を閉じて、心療内科などの専門機関や公的な相談先へ。本は回復の途中で、また棚から出せばよい。