『ゼロ秒思考 頭がよくなる世界一シンプルなトレーニング』(赤羽雄二著、ダイヤモンド社)は、A4の紙にメモを書く練習を軸にした一冊である。頭の中だけで考えが回り続けて、会議でも文章でもまとまらない人に向く。一方で、書く行為そのものが負担な人には続かない。向き不向きの分かれ目と、買う前に確かめておく環境の条件をここで見ていく。
この本が向く人
処方の対象になる症状は、考えの渋滞である。頭の中では何時間も考えているのに、口に出すと途切れ、書こうとすると最初の一行で止まる。会議で「結局どういうこと」と聞き返される。寝る前に同じ心配を何周もする。この症状の「出せない」という側面に、思考を紙の上へ出すことだけを反復する本書の練習が1対1で対応する。
向く条件は三つある。
- 考えを書き出す習慣がいまゼロで、道具は紙とペンだけの最小の形から始めたい
- うまく書くことではなく、速く出すことを練習だと割り切れる
- 歯みがきのような毎日の反復を、面白みがなくても続けた経験がある
この本が向かない人
まず、書く行為そのものが負担な人には向かない。この練習は毎日書くことが前提で、出版社の書籍ページにも1ページ1分・毎日10ページという目安が明記されている。読むだけで効く本ではないため、書く負担が症状より重い人には、最初の一週間で途切れる。
次に、感情の深い整理を期待する人にも向かない。書き出す対象に悩みごとを含めることはできるが、本書の中心は思考を速く出して整理する訓練であり、気持ちの手当ての本ではない。心の症状が主訴なら、症状側の処方箋から選び直すほうがよい。
きれいなノートを作りたい人も相性が悪い。裏紙に殴り書きする速度が要で、書式の美しさは求められていない。ここを取り違えると、フォーマットを整えること自体が目的化し、毎日同じ定型文を並べる空回りに入る。これがこの本のいちばん多い副作用である。
扱う範囲と扱わない範囲
扱うのは、頭の中のものを紙に出して整理する練習の一点である。考えた中身が正しいかどうか、その悩みをどう解決するかは扱わない。考えすぎの背景に眠れない夜や続く不調があるなら、それは練習ではなく専門機関の領域である。
読み方の選択
通読しなくても始められる、数少ない実用書である。方法を説明した章を読めば、その日のうちに一枚目を書ける。理屈の章はあとから戻って読んでも成立するので、拾い読みで問題ない。
買う前に確かめるのは本の中身より環境である。毎晩でも毎朝でもよいが、紙とペンを置きっぱなしにできる場所が一つ要る。取りに行く手間が一つ挟まるだけで、この種の練習は止まる。置き場所の当てがあるかどうかを、購入の判断材料にしてよい。
似た本との違い
『エッセンシャル思考 最少の時間で成果を最大にする』(グレッグ・マキューン著、高橋璃子訳、かんき出版)は、何を考えるかを選び、残りを手放す本である。頭から速く出す練習の本書とは、症状の別の側面を受け持つ。出せないのが苦しいなら本書、抱え込みすぎが苦しいならあちらで、鑑定は『エッセンシャル思考』はどんな人向けかにある。
この本の前後に読むもの
症状側から入り直すなら、考えすぎて動けない人に効く一冊の処方箋が正面の入口になる。考えは出せるのに着手が遅れるのが主訴なら、後回し癖に効く一冊の処方箋の側かもしれない。毎日の練習という言葉に身構えるなら、先に読書が続かないときの最小単位で、続けることへの期待値を下げてから戻るとよい。

