人間関係の疲れに対する主処方は『仕事、人間関係の悩みがスーッと軽くなる! 「繊細さん」の知恵袋』(武田友紀著、マガジンハウス)である。嫌いな相手がいるわけでもないのに、人と会った日の消耗が抜けない人、頼まれると断れない人に向く。相手のいる場面より自分の感度そのものが主訴なら、処方は代替の側になる。人付き合いが得意になる約束はせず、場面ごとの選択肢が増えるところまでを渡す。
症状の見立て(どんな状態を指すか)
木曜の夜、ミクが持ってきたメモには「人と会うと疲れる」とだけ書いてあった。ホナミはまず、その疲れを二つの棚に分けた。音や気配に気づきすぎて消耗する、自分の感度の棚。そして、頼まれて断れない、機嫌の悪い人が近くにいると仕事が手につかない、といった相手のいる場面の棚である。
この記事が扱うのは後者、相手のいる場面の消耗である。会っている最中は普通に振る舞えるのに、別れた後にどっと疲れる。断った後の関係を想像して、結局引き受ける。相手の何気ない一言を、家に帰ってからも抱えている。場面を思い出せるなら、この処方の範囲でよい。場面を特定できず、あらゆる刺激で疲れているなら、感度の棚から入り直すほうが早い。
主処方の一冊と処方理由
この本を主処方にする理由は、症状が「場面」の形をしていることと、本が「場面別」の形をしていることが一致するからである。
- 「頼まれると断れない」「機嫌の悪い人に巻き込まれる」といった場面単位の消耗には、多くの相談を受けてきた著者のもとに当事者たちが持ち寄った知恵を、場面別に並べるという本の構成そのものが対応する。総論を最初から読む必要がなく、いま疲れている場面の項目から開ける。
- 「自分だけがうまくやれない」という孤立の感覚には、同じ場面で消耗してきた人たちの実例が並ぶことが対応する。工夫の中身より先に、場面の重さが共有されている事実が効く。
- 「対策を考える気力も残っていない」状態には、一項目が短く独立している事典型の作りが対応する。疲れている夜でも、一項目なら開ける。
なお、この記事では個々の場面でどう言うか・どう振る舞うかの中身には踏み込まない。それは本の中で確かめてほしい部分であり、ここで書き写せば処方箋ではなく要約になる。
副作用(合わない人・効かない状況)
起きやすい副作用の第一は、共感止まりである。事例を読んで「わかる」と安心し、自分の場面に何も持ち込まれないまま読み終わる。これを避けるには、読む前に自分の場面を一つ決めておく用法が要る。第二に、繊細さんという名札が回避の理由に育つことがある。しんどい場面を全部避ける方向に傾いたら、名札ではなく場面単位に戻す。
効かない状況もある。消耗の原因が特定の相手の攻撃的な言動、たとえば繰り返しの叱責やからかいにある場合、個人の工夫を扱う本では釣り合わない。それは我慢や工夫の症状ではなく、相談と記録の領域である。体に出ているなら、本より先に専門機関へ。
代替の二冊
- 『「気がつきすぎて疲れる」が驚くほどなくなる 「繊細さん」の本』(武田友紀著、飛鳥新社)。相手のいる場面より、自分の気づきやすさそのものが主訴の人向け。同じ著者の、感度側から入る一冊である。
- 『反応しない練習 あらゆる悩みが消えていくブッダの超・合理的な「考え方」』(草薙龍瞬著、KADOKAWA)。会った後の反すうが消耗の中心である人向け。場面の知恵より、考えとの距離が先に要る場合の処方である。
最初の10分の読み方
用法は逆引きである。目次から読む必要も、最初の章から読む必要もない。今週いちばん消耗した場面を一つ選び、その場面に近い項目だけを10分読む。読んだら、次に同じ場面が来たとき試すかどうかだけを決める。試さないと決めてもよい。選択肢を持ったこと自体が、この処方の一回分である。
全部読まなくてよい条件は明確で、この本は事典型である。自分に起きない場面の項目は読まなくてよい。通読しないことは手抜きではなく、正しい用法である。
この悩みの本体はどこで扱う領域か
ハラスメントに当たる状況は労務相談の領域に、眠れない・涙が出るなど体に出ている状態は医療の領域に属する。それぞれの本体に返すことまでが、この処方箋の仕事である。