『エッセンシャル思考 最少の時間で成果を最大にする』(グレッグ・マキューン著、高橋璃子訳、かんき出版)は、忙しさの原因を仕事の量ではなく引き受け方に見る一冊である。断れずに手帳が埋まる人には症状の中心に当たるが、減らす裁量がない立場では効きにくい。その分かれ目がどこにあるかを、読み方まで含めて確かめる。
この本が向く人
症状の典型は、「全部やろうとして、全部が中途半端」である。頼まれると断れない。予定表は他人の依頼で埋まり、自分で入れた予定がほとんどない。どれも大事に見えて優先順位が付けられず、夜になると今日も進まなかったという感覚だけが残る。
この症状の核心が量ではなく引き受け方にあるとき、より少なく引き受けて深くやるという本書の選別の基準が効く。逆に言えば、症状の見立てが先である。純粋に業務量が多すぎるだけの状態、あるいは処理の速さの工夫を探している状態なら、この本は答えを持っていない。
もう一つの条件は、断った経験の少なさを自覚していることである。断り慣れていない人ほど、引き受けるかどうかを判断する基準そのものを持っていない。基準を外から一度もらう、という使い方にこの本は向く。
この本が向かない人
いちばん大きい分かれ目は裁量である。担当も量も上から決まり、減らす対象を自分で選べない立場の人がこの本を読むと、正しいが実行できない指示だけが手元に残る。実行できない正論は、やがて「減らせない自分が悪い」という自責に変わる。この副作用は本の欠陥ではなく適合の問題なので、立場が変わるまで棚に置くのが正しい扱いになる。
次に、断り方の具体的なセリフを探している人には向かない。本書が渡すのは選別の考え方までで、角を立てない言い回しの実例集ではない。そこは会話の練習の領域である。
すでに自分の手放す基準を持って回せている人にも、新しい発見は少ない。その場合は買い足すより、いまの基準で断れていない例外を一つ点検するほうが早い。
扱う範囲と扱わない範囲
扱うのは、何を引き受け何を手放すかという選別の考え方である。スケジュール管理の細かい技法、チームの業務改善、処理速度の向上は扱わない。また、忙しさですでに眠れない・食べられないといった不調が出ているなら、読書の前に休養と専門機関が先である。
読み方の選択
前半で考え方の軸を作り、後半でそれを場面ごとに広げる構成のため、前半だけは順に読むのがよい。後半は目次から自分の症状に近い章を選ぶ拾い読みで成立する。かんき出版の書籍ページによれば320ページあるが、全部を一度に消化する必要はない。
最初の10分は前半の冒頭にあて、「より少なく」という方向性に自分の実感が付いてくるかを見る。反発しか湧かないなら、いまは時期ではない。
似た本との違い
『完訳 7つの習慣』(スティーブン・R・コヴィー著、キングベアー出版)は、優先順位を含む生き方の原則を全体系で扱う。射程は広いが、その分だけ長期戦になる。減らす一点に症状が絞れているなら本書、土台から立て直したいならあちらで、鑑定は『7つの習慣』はどんな人向けかにある。
『ゼロ秒思考』(赤羽雄二著、ダイヤモンド社)は、選ぶ前段階の「頭の中がまとまらない」を受け持つ。何を抱えているか自体が見えていないなら、書き出す練習が先になる。鑑定は『ゼロ秒思考』はどんな人向けかを見てほしい。
この本の前後に読むもの
症状側の入口は時間に追われる感覚に効く一冊の処方箋である。時間ではなく職場の人間関係や環境そのものが消耗の源なら、職場のストレスに効く一冊の処方箋の側から見立て直す。この本を選んだ場合は、読後一週間のうちに一番小さい一件を断れたかどうかを、効き目の確認点にするとよい。